2010年5月26日

最終準備書面


福岡県労働委員会
会長 野田進 殿

フリーターユニオン福岡
代表執行委員 上村 陽一郎

はじめに
 本書面においては、証言を総合して、本申立の全体像を今一度明らかにし、それを基に、ピアノ講師が労働者であることと、被申立人は使用者であり団体交渉を受ける義務があること、Qの契約を更新しなかったことは不当労働行為に該当することを陳述する。

第一 労働者性について
1、採用過程について
(1)講師募集および会社の採用
 講師の募集は学校訪問による説明、新聞やホームページ等による告知によって、講師を公募する(橋本証言p1)。
 講師の採用は試験によって行われる。試験内容は、論文、実技、面接によって行われ、それぞれ採点されることによって合否を決定する。講師の採用過程については、通常一般の企業の採用過程と何ら変わるものではない。それはQの証言のとおりであり、また、会社側証人の証言も一致するところである。
 Qは大学の就職センターにおいて講師募集の案内を見て、講師を志願した。試験は面接と実技によって行われた。面接は集団で面接が行われた(Q証言p2)。なお、面接官の中には、委任講師も存在した。
 Qは選考試験を受けてカワイ音楽教室の講師となった(Q証言p4)が、平成19年9月の選考試験に合格しなかった。(山根証言p2、p17)。一旦は、ジャズピアノの講師としては選考試験に落ちたが、古川講師の後任の音楽教室の講師として採用となった。
 「講師の手引き」については、2回会社から渡された。コースやグレードなどのシステムに付いて、カワイ生徒保険、生徒見舞金制度等に関することを説明された。具体的な説明に代えて、「講師の手引」を渡したものと考えられる。
 当初の身分はアルバイト講師ということであった。アルバイト講師の契約は書類で契約を交わされていない。この契約は10月26日に口頭で契約された。そして、特に面接等を行うことなく、翌年4月に委任契約を締結した。

(2)採用基準について
 試験は論文、実技、面接によって行われ、それぞれに採点がなされる。それによって合否を一方的に決定される。
 採用の際の基準として、実家からピアノ教室に行ける人を優先している。(橋本証言p5)。それは、一人暮らしでは生活できない報酬となっているからである(橋本証言p5)。実際にピアノ講師のみで生計を立てている人は、ほんの一握りとのことである。(橋本証言p5)。

2、契約締結の方法について
 契約については、会社の用意した契約書に署名捺印している。氏名の欄は白紙のものが講師に渡され、そこに署名捺印をする(山根証言p11)。契約の条項は変更可能であると会社側の証言があるが、変更可能な個所は限られており、協議によって条項を変更したという実績は無い(橋本証言p6-7)。
 委任契約書は4月1日と日付がついているものの、Qが契約書に署名捺印したのは4月8日の講師会合においてである。このとき、講師全員が署名している。契約書の条項について変更可能であることは説明されず、契約書を読み上げただけであった。その時には講師は110名ほどが集まった。

3、報酬の決定方法について
 レッスンに対する報酬は会社が決定した報酬体系によって、報酬が決定されている。また付帯業務に対する手当も存在する。報酬の決定については、講師と会社との間に交渉の余地は無い。
 報酬は生徒一人当たりの歩合給ということになっており、昇給をするにはグレード試験を受けねばならない(証言橋本P6)。九州ではグレード試験は福岡でしか行われておらず、講師は九州管内交通費を自己負担してグレード試験を受けに来なければならない。グレード試験には受験料がかかる。
 出来高の歩合給であると会社側は説明しているが、実質的には労務提供の対価である。というのも、一回のレッスン時間が30分と決められており(山根証言p27)、報酬は時間給と同視することができる。また、給与計算を理由にして講師同士の交代に対して制約をかけていることを考えると、一定時間の労務の提供への対価という意味合いが強いからである。
 なお、講師の報酬については、給与所得として源泉徴収をされている。

4、事業の遂行方法について
(1)採用前の研修とレッスンの遂行方法について
 採用された講師は、実際にレッスンを行う前に事前研修を行う。これは支社採用教育と地区採用教育に分かれる。事前研修については、過去に全ての講師が受けている(山根証言p41)。研修の回数は10回と決まっており、受ける時間や場所についても決まっている(山根証言p25)。研修の内容は、カワイで使用する教材の具体的な学習を行うというものである。
 本件に即して言えば、Qは採用前の研修の全てに参加している(Q証言p66)。Qは採用されたのち、12月5日と13日の研修に参加した。また、レッスンを行うに当たって、レッスン見学も4回行った。加えて、3月に行われる研修にも参加している。どちらも会社の指示によって、参加したものである。
 12月5日と13日の研修については、カワイの教材をもとに研修を受けた。5日は「ピコル」とグループレッスンの手引書を使って、13日は「サウンドツリー」と個人レッスンの手引書をつかって、カワイの授業方法を学ぶというものであった。グループレッスンの手引書、個人レッスンの手引書に付いては、指導書と社内では呼ばれ、それに沿ってレッスンを進めていくという指導をしている(山根証言p47-48)。
 また、研修においては子どもの接し方についてのレクチャーを受けたが、それについては模範として示された。
この2回の研修は、通常は3月のレッスンに行われる採用前研修に当たる性格のものである。アルバイト講師として業務に当たる前の事前の研修という性格を有している。なお、このときの指導に当たった講師は、委任契約を締結している講師である。

(2)無料研修、有料研修、有料レッスンについて
 採用前研修以外にも、講師全体が受けねばならない研修、1年目研修、2年目研修が存在していた。また、有料研修や有料のレッスンも存在している。
 これらの研修について講師は通常参加しており、また会社から参加するように講師に対して指示をしていた。
 有料研修については組合に加入するまでは受けていた。4月1日にキリスト教会館で行われたピアノグレード講座、青山広志の有料研修については、強制だと思っていたために受けていた。
 会社によって指定された教材を使い、また、教え方等についても、会社が研修制度を設けていることから、コースに対して教材は決まっており(乙7号証)レッスン指導の方法については、規格化されている。
 研修の参加については任意であり、「自由ですけどできるだけ出ていただくようにおねがいしております」と橋本は証言している(橋本証言p23)。しかし、契約書の形式上、研修は参加を予定されているものであり、実態上も講師の意思に任されているとは言い難い。
 有料のレッスンについては、当初はレッスンを受けるよう会社から言われていたが、Qは組合を通じてレッスンを受ける意思がないことを会社に伝えた結果、レッスンを強要されることはなくなった。しかしながら、録音テープを会社が提出するように指示された。このテープの提出に関しても、組合が8月4日に会社に連絡して、任意であることを確認した。

(3)講師のレッスン方法の裁量
 レッスンについては、先にふれたような指導書が存在しており、また教材も決まっていて、それに従ってレッスンを行っていることは、会社も認めている(上村証言p7)。
 講師の裁量についであるが、レッスンの進みが遅い生徒に付いては、テキスト以外の楽譜、カワイ指定の教材を使わずにレッスンを行うというケースがある。また、歌が好きな人には、歌をメインにピアノのレッスンを進めたりする(山根証言p49)。このように個人の裁量にゆだねられる部分も存在しうるが、これは雇用契約のもとで働く労働者においても当然に認められうるものである。

5、就業地の決定および就業実態について
 Qは3月までは大野城市のみかさ幼稚園に週2回、筑紫野ベレッサにおいて週1回レッスン指導及び付帯業務に携わっていた。また、4月以降は筑紫野ベレッサ、サンリブ古賀においてレッスン指導および付帯業務に携わっていた。
 みかさ幼稚園については、レッスンに携わっていた時間は15時から17時であるが、通勤時間が片道二時間かかっていた。そのため実際には13時から19時までは講師業務に必要な時間となっていた。
 筑紫野ベレッサについては、10時から18時までが就業時間となっていたが、通勤に片道2時間かかるため、朝の8時から20時までは講師業務に必要な時間となっていた。
 サンリブ古賀については、業務に携わっている時間は16時30分から18時までであった。通勤時間は40分ほどであり、15時から19時までが講師業務に必要な時間となっていた。
 講師報酬については、一人一ヶ月あたり1950円から1470円であり、交通費は支給されていた。また、付帯業務については時給700円で計算されていた。

(1)就業場所と就業時間およびレッスン回数について
 契約書においては、レッスンの回数や就業場所については、会社が指示するという旨のことが書かれている。レッスンの時間と場所の指定は存在することは、会社が話し合いの場で認めている(上村証言p8)。
 レッスン回数については、規定以上の回数を行うことは可能であるとの証言はあるが、契約書の文言からすれば、決定権が会社にある。
 レッスン回数については、一回30分であるということ、会社がレッスン回数を決めていることは否定されていない(山根証言p27)。レッスンは40回というサイクルで決められており(橋本陳述書p11)。
 
(2)就業場所の決定について
 就業場所は会社が講師を、それぞれの教室に配置している。会社側は、年度開始前に講師に担当教室を書いた文書を渡される前に、講師とは事前に話し合いをしていると証言している。(橋本証言p43)一方で、Qの証言においては既定の事項として文書が来て、初めて自分の担当教室がわかると証言している。(Q証言p62)。講師会のときに、教室の割り当ての紙が配られ、教室の異動が知らされることとなる。スケジュールが決定される前に、会社との間で話し合いは全く無かった(Q証言p63)。乙3号証の内容について事前に会社から確認されることはなかった(Q証言p63)
 ここにおいて、両者の認識についての齟齬があるため、Qの教室決定経緯を再度検討する。
 みかさ幼稚園については、結婚退職する講師がおり、代替講師としてQが担当することとなった。なお、4月からはみかさ幼稚園は外されることになる。
 筑紫野ベレッサについては2月に打診され、筑紫野ベレッサを受け持つこととなり、4月以降も継続して担当することとなった。サンリブ古賀についても、Qが担当できるか否かについて打診され、担当することとなった。
 以上を見てみると、Q組合員が教室の担当を行う前に会社から担当教室の打診が為されている。また契約更新に関する面接で会社は講師の来期の希望等を聞いている。これらのことから、講師の希望は聞いて、会社が担当教室を決定し、講師を配置している。
 講師の担当教室を決定する基準としては、生徒の希望曜日等と講師の稼働可能な地区、曜日時間を照らし合わせて一番合う人を選んでいる(橋本証言p9)。また、教室の違いにも講師の選定に影響を及ぼす。
 教室については、テナントやビルの一角を借りるほか、インショップ型、幼稚園、保育園の園者を借りる、公民館等を借りている。生徒の自宅でレッスンを行う出張レッスンを行う制度は存在する。講師が自宅をカワイ音楽教室として、レッスンを行うことは不可能である。(橋本証言p10−11)
 また、講師のグレードについても、担当教室の決定の際には考慮される(橋本証言p43)。

(3)身分証の携帯
 講師は顧客ないしはレッスン場所においては、身分証を携帯し、カワイ音楽教室のQとして紹介されている(Q証言p10)。このことについては、証言において否定されることは無かった(橋本証言p22)。会社はIDカードを持つように全員の講師に指示を行い、会社が講師に作成して渡している。(山根証言p27)。
 Qは業務に当たる際には、カワイ音楽教室のQということで業務に当たっており、生徒また幼稚園や筑紫野ベレッサの職員にも、カワイ音楽教室に所属するものと認識されていた(Q証言10p)。

(4)付帯業務
 講師は、レッスン指導のほかにも付帯業務を行っている。Q組合員の場合、筑紫野ベレッサにおいて行っていた、受付やビラ配りであった。これらの付帯業務については、時給で計算されている。
 受付業務については、Q個人のための生徒を集めるというよりも、教室のために生徒を集めるという形で受付業務がなされていた。というのも、自分が受け持つ曜日と客の曜日とが合わない場合には、別の曜日の先生のために受付業務を行うことになるからである(Q証言p54)。

(5)会社への報告および事務処理
 講師は事務作業も行わねばならず、また会社に報告義務を負っており、それらの報告に関しては会社規定の様式の持った書類を使って為される。管理業務や教材費の入金の処理の方法について、手続きや方法に付いては会社から全て指示があった。事務処理は、15分くらいで済むものであったが、一つ一つ会社で事務処理を行わねばならなかった(Q証言p56)。
 また、所定のプリントを使って、生徒のレッスン状況を会社に対して報告しなければならなかった。(Q証言p17)

(6)講師による営業
 講師はピアノを教えるということのみならず、営業的なことを行うことも期待されている(橋本証言p8)。
 新入の目標やピアノ販売セールについての案内を掲載した文書を配布している(甲12号証)が、口頭ではノルマでは無いことを説明している(山根証言p38)。しかし、講師の目標達成したかどうかについては、会社が確認し把握している。(山根証言p39)

(7)発表会等
 レッスンに付随する業務として発表会等の行事がある。Qは「はるのおんがくかい」の業務に従事した。
 発表会の準備のためにレッスンを行ったが、それについては、報酬は支払われなかった。また、交通費についても全額支給されるわけではなかった。また発表会についても、業務にあたった時間全てについて報酬が支払われてはいない。
 「はるのおんがくかい」の交通費 乙13号証の2について交通費はQに対して支給されている。一方で、被申立人の答弁書において、「はるのおんがくかい」の合同練習には交通費を支給しないとあるが、実際には交通費は支給されている(山根証言p44)
 
(8)教材の貸与
 レッスンに使用する教材については、会社から貸与されている。乙6号証について教材の購入については、「買わなくて結構ですとお話ししたことはあります」と山根は証言している。しかしながら、Qは買い取りは強制だと認識していた(Q証言p14)。

6、会社による講師の組織化
 講師は講師名簿に、音楽教室の講師と「その他の講師」という区別で登録される。その区分は、講師研究会に入っているかどうかによる。
 Q組合員は、講師研究会に加入しないことが確定した時点で、「その他講師」という扱いになった。その他講師の意味についてであるが、ポピュラー講師とその他講師は同じと理解することができる(山根証言p42)。
 そもそもは、全ての講師が講師研究会に入っていたため、特に区別する意味は無かったが、Qが入らないということで、区別が必要になった(山根証言p41)。
 会社が作成した講師同士の連絡網があり、生徒のレッスン状況、生徒のグレード試験、生徒のピアノ購入についてなどを、1週間に1回、連絡網を通じて会社に連絡しなければならなかった。(Q証言p17)

(1)講師の役割について
 ピアノ講師の中には、会社が任命した地区リーダーないしは指導講師という、講師の指導にあたるものが存在する。講師は講師の採用試験の試験官を行うこともある。

(2)講師会合について
 契約書において、「講師会合に出席するものとする」とされている。実際の運用については、Qの証言、会社側証人の証言通り、出席が前提とされている。また、講師会合の無断欠席を理由にして、契約の更新が拒否されている事例も存在する(求釈明に対する回答書p7)。したがって、契約書の形式上も、組織運営の実態上も講師の出席が任意であるとは言い難い。
 なお、講師会合においては「講演会、全員参加」、「全講師参加」という要請がなされるようなプリントが配られていた(甲12号証)。講師全体に参加を求めているものについては、会社は出席を把握し、チェックを行っている。(山根証言p38)。Q組合員に関しては、これらの要請については組合を通じて応じてはいなかった。
 
(3)講師研究会について
 講師研究会は、講師の自主的な組織である(山根証言p12)。しかし、実際には会費の徴収については、会社が代行しており、また講師研究会の入会申込書については、委任契約書と同時に配られている。
 なお、講師研究会に入会する場合には音楽教室の講師となり、そうでない場合には、その他講師と扱いが異なるようになる。また、講師研究会は有料研修を主催している。これらのことから、講師研究会は会社と密接な関係を有しており、講師の自主的な組織とは言い難い。
 Q組合員については、講師研究会の入会申込書については、4月8日に委任契約書とともに渡されたが、Q組合員は捺印をしていなかった。
その後、7月10日までに書類に押印をすることを会社に求められたため、7月4日に組合が会社に講師研究会の入会が任意かどうかを確認し、Qは講師研究会には加入しなかった(上村証言p3)。
 
7、代替性
 講師同士のレッスンの交代は自由に行うことができない。会社側も講師に対して、その旨を通達している。
 他の講師を見つけてきて交代すること自体は可能である。ただし、40回のレッスンのサイクルの中でやりくりしてする、つまり講師の変更よりも、週を増やす当の形で対応が講師に望まれている。(証言橋本P11)。また、講師の一存で交代を行うことは不可能である。変更する場合の手続きというのは、事前にカワイに届け出を行って、その後に先生が生徒に自分で連絡する。実態としては、講師同士の交代の実例は殆どないという。
 講師の自主的な交代を認めていない理由としては、源泉徴収の計算があると会社は話し合いの場で説明している(上村証言p10)。
 また、山根は次のように証言している「例えば私が担当しているとすると、私に自動的につくようになりますので、そうなりますと、金銭のやり取りを直接本人としていただかなくちゃいけないということになります」(山根証言P27)。
 
まとめ
 講師は採用試験を受けて、カワイ音楽教室の講師となる。採用前には、全ての講師が研修に参加して、レッスンの指導方法を教えられる。講師はレッスンとそれに付随する報告や事務処理以外にも、付帯業務や営業的な業務を行うことが期待されている。
 就業場所や時間等については、会社が講師をそれぞれの担当教室に配置するという関係がある。レッスンの回数や一回のレッスンあたりの時間についても会社が決定している。業務に当たる際には講師は、カワイ音楽教室の一員として身分証を着用している。
 契約については、会社が既に用意した定型の契約書に署名、押印をするというものであり、今までに契約書の条項を変更された実績は無い。報酬も体系化されており、協議の余地は存在しない。報酬は、時間給と同視しうるようなものである。付帯業務に付いては時給で計算されていた。また、報酬は給与所得として源泉徴収されている。
 講師は会社が組織化しており、例えば地区リーダーという講師を指導する役割を持った行使が存在する。また、講師研究会への参加は任意であるとされているが、Q以外は全ての講師が参加し、講師研究会に所属していない場合は音楽教室の講師ではなくなるということから、単に講師の自主的な組織とは言いがたい。講師会合についても、契約書上で出席が前提とされており、実態としても出席は義務的なものである。
 以上のことから、講師は会社組織に組み込まれており、講師は会社組織の一員であるということができる。会社側証人も、講師が会社組織の一員であると扱われていると認識しており、また委任講師抜きではカワイ音楽教室の事業遂行は難しいと発言している(橋本陳述書(p20)。加えて、山根はQにとって指導者の立場に立っていたと発言した(山根p45)。
 したがって会社と講師の間には使用従属関係が認められ、講師は労働組合法上の労働者である。

第二 会社の団体交渉拒否について
 会社は、あくまで「話し合い」と称し、団体交渉を受けたことは一度もない。団体交渉を拒否し続けてきているのである。講師とは委任契約を締結しているというのが、その理由である(上村証言p7)。
 たしかに、「話し合い」であっても、実質的に団体交渉と解される余地はないわけではないが、団体交渉ははじめから受ける気は無いということは2月13日の「話し合い」の場で北川支社長が明言している(竹森証言p27)。
 また、2月13日を最後に、今後の交渉を拒否するとして(甲11号証)実際に組合と会社との間に直接の交渉の場は持たれていない。
 Q組合員の契約不更新について説明が尽くされたとは言えず、かつ会社側から金銭解決についての打診が生じている以上、組合と会社との交渉事項に付いては未だ存在している。その段階において、話し合いを打ち切ることについて、何らの正当事由は存在しない。
 会社は団体交渉を拒否し続けており、正当事由なく話し合いを打ち切るという不当労働行為を行っている。

第三 Q組合員の契約更新拒否が不当労働行為に該当することについて
1、契約更新拒否
(1)契約更新の会社の姿勢について
 会社は契約を出来るだけ更新するように努めている(橋本証言p13)。この発言については、1月30日の「話し合い」の際にも同趣旨の発言が為されている(竹森p5)。契約が更新されない例として、会社に対する背信行為が証言の中であげられている(橋本証言p14)。更新を希望しながら更新されなかったのは、Q組合員のみである。したがって、Q組合員の契約更新拒否については、背信行為に類するほどの相当な理由がなければならないはずである。

(2)契約不更新の判断時期について
 契約不更新について初めて言及されたのは、甲7号証(要求書に対する弊社の見解)においてである。この判断については、文章はだれが考えたのかは、証言の中でもはっきりとはしていない(橋本証言p28)。契約更新が難しいと判断した理由等については、年明けにおいて既に固まっていたと証言している。
 しかしながら、1月30日に行われた話し合いにおいては、契約不更新の理由については明言されていない(竹森証言p5)。契約が更新されないことが明言され、理由も述べられたのは2月13日のことである(竹森証言p7)。したがって、いつどこで誰がQの契約を更新しないと判断したのかについては、明確にはなっていない。
 
(3)Q組合員の契約不更新の理由
 契約を更新しないと判断した理由については、第一にみかさ幼稚園からのクレームがある。だが、みかさ幼稚園からのクレームがあったにもかかわらず、筑紫野ベレッサの仕事を依頼し、さらに4月以降も契約が継続されている。更新拒否に関して、みかさ幼稚園のクレームに関して大した理由にはならないことを組合側が指摘したところ、山根は沈黙した。(山根証言P25)。
 また、みかさ幼稚園の保護者からの苦情については、Qに対して伝えられてはいないし、それらについてQに対して、指導を行うこともなかった。当時、山根はQに対する関係においては、指導者という立場であり、何らかの指導を行いうる立場であった(山根証言p45)。
 第三に、ベレッサ教室の永松さんの退学の件については、Qに対して伝達もされていないし、ベレッサについては継続して担当している。また、クレームに対しては、記録には残していない(山根証言p36−37)。なお、Qが担当していたときに辞めた生徒の数は約5名であるが、辞めた人のことや原因について指摘されたことは特になかった。
 第四に、体験入学の生徒の獲得率の低さである(竹森証言p9)。だが、講師の契約を更新しない理由として、「体験入学を行った生徒の獲得率が低かったという事例は、実際にはなかった」ということに対しては肯定している(橋本証言p44)。また、生徒の獲得率が7割8割が目安とはいえ、データによる平均値も存在しない。
 第五にQが行ったレッスンに関わる生徒の出席率が低いということである。(竹森証言p9)であるが、結局、データとして出されてはいない。
 第六に、任意の研修を受けなかったことについて向上心が無いと判断した(竹森証言p9−10)(山根証言P15)。しかし、研修は任意のものであり、研修を受けなかったことを理由にして契約を更新しないのであれば、任意のものとはいえない。これらについては、どれも契約更新をしないことの正当な理由とはなりえない。にもかかわらず、契約が更新されていないわけであるから、契約を更新しない理由については、不当労働行為意思に求めざるをえない。

2、会社による不当労働行為意思を疑わせる事実について
(1)甲7号証の文言
 甲7号証において「委任契約を正当と認めることが前提」であるとしているとおり、組合の主張を理由にして契約を更新しない姿勢を見せている。
 
(2)有料レッスンを受けなかったことに対する会社の対応
 4月にQ組合員と山根氏はレッスンや有料研修を受講することについて議論になっていた。この段階においては、組合のアドバイスを受けて、個人の立場でレッスンについて議論をしていた。
 有料レッスンはあくまでも任意であるとのことである(山根証言p8)。しかしながら、レッスンについては受講することをQに求め、3回に渡って話合いを行っている。さらに電子オルガンのレッスン見学をQが申し出たところ、山根はそれを拒否している。
 4月に江頭と山根とで話をしたことについては、九州支社長や橋本、福井に一旦相談はするような形になっていた。
 有料レッスンや研修の問題について、Qと会社との間で話がつかなかった。そのため、Qは組合に加入し、組合を通じて有料研修やレッスンを受けない旨を、組合を通じて意思表示するようになった(上村証言p3)。
 しかし、結局、研修を受けなかったことについて、向上心が無いと評価して、契約不更新についての判断材料としている。また、研修が任意であることは組合を通じてQが意思表示をした結果、確認できたものであり、研修に出席しなかったことは組合活動の結果である。したがって、ここに、不当労働行為意思を認識することは可能である。
 技術向上に努めているかどうかの判断は、テープ提出、レッスン見学、グレードテストが何級かについてである。
 加えて、ピアノ講師のうち福岡事務所の場合、研修を受講しない講師は08年は1名であるが、これはQ組合員のことである。それ以外の年度で講師が研修を受けなかった例は存在しない。テープ提出を求められた3名のうち、提出したものは1名であった。
 しかし、3名とも契約は更新されていない。Qが直接言われたわけではないが、レッスンを受講していなかった講師には、次年度の契約に関する面接の際に、会社の指示に従わないものだから、どうなるか分からない、更新かどうかも分からないと言われたものもいる(Q証言p67)。

(3)契約更新の際の面接について
 契約更新の際に行われた面接において、来期の希望よりもQに対するクレームの方が長かった。「非常に殺伐とした状況で・・敵意をもっているんじゃないかと思うぐらいの印象受けた」というものであった(Q証言p24)。さらに、Qだけが面接の場で厳しく言われたという証言(Q証言p24)がなされている。
 既に、組合を排除する方向性を会社が有していたことを考えると、この面接はQを排除するという結論を出すために行われたものである。
 なお、この面接について争いのある事実があるが、一月のQ組合員との契約に関する面接の時に、山根は「大学」の講座と発言したことを認めている(p31)。

(4)契約更新の判断について
 契約の更新に関する判断については、福岡事務所が実質的に判断しているとあるが(竹森p5)、契約更新拒否については支社ないしは本社の判断も入っている(竹森p8)。一講師の契約の更新について本社までが判断に関わっているということは、通常考えられない対応である。本件の経緯から考えてQが組合員であったため、このような対応をなしたと考えられる。したがって、ここには、組合員排除という不当労働行為意思が働いていることに十分な蓋然性がある。

おわりに
 これまで述べてきたとおり、ピアノ講師は会社組織に組み込まれ、使用従属性が認められるため、労働組合法上の労働者である。したがって、会社が団体交渉を拒否することは、紛れも無い不当労働行為である。
 それに加えて、Qが契約を更新されなかったことに理由は無く、その理由は組合を排除しようという会社側の意思に他ならない。審問の場においてすら、会社はQの振る舞いに対して「挙動不審」などと差別的に表現し、組合員を差別取り扱いしようとする意思を隠そうとはしていない。
 このような労働者の団結権、団体交渉権への侵害が続いている状態を一刻も早く是正されるためにも、本申立に対して公正な命令が発せられることを強く望む。


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