陳述書


2010年2月16日
福岡県労働委員会会長 殿
フリーターユニオン福岡
組合員 竹森 真紀

 福岡労委2009年(不)第5号不当労働行為救済申立事件について、次のとおり陳述します。


1.はじめに〜不安定雇用=偽装委任的契約との闘いの困難さ〜
 私は、フリーターユニオン福岡の結成時から組合員をしています。また、北九州がっこうユニオン・ういという学校労働者の独立組合の書記長をしていますが、一方でこのフリーターユニオンの組合員でもあり、二重加盟ということになります。私は、20年以上、このような上部団体を持たない個人加盟の独立系の労働組合運動に関わっています。労働委員会の申立も初めてではありませんし、全国の地域ユニオンなどとの連携もあり、さまざまな労働事案に立ち会ってきた経験もあります。
 2008年11月20日のカワイとの最初の団体交渉は、一言で言えばさまざまなことが曖昧なまま終わったというのが印象です。現時点で当時のことを振り返ることで、少し整理して考えることができますが、そのときは組合が明確な獲得目標を掲げ要求していくことができなかったのではないかと考えています。もちろん、経営者の不当・違法性を是正していく営みは困難なものですから、最初から絵に描いたような道筋はありませんので当然ではありますが、曖昧にならざるを得なかった大きな争点は、講師という立場があまりに労働者としての法的保護を受けられない状態であったからだと考えます。労基法、労組法に定められた労働者であれば、団体交渉で労働条件を改善していくことが大前提ですから、最低限「労働者であること」には迷うことなど要らないのです。つまるところ、この「偽装的委任契約」による不安定な身分をいかに改善しつつ、雇用を守るためにその身分を維持し守ることを最優先しながら、ある意味、直球と変化球を投げ分けて闘っていかなければならなかったのです。

2.第1回団体交渉を反故にしたあからさまな不当労働行為の回答
 上記したような困難な状況のなか、団体交渉を終えた組合は、その後の対策を練りました。カワイ側が、この場を団体交渉と認めなかったこと、会社の権限と責任持った立場の役職の人は出席せず課長職しか出てこなかったこと、講師の労働者性についても説得力のある説明は無いが労働者性を認めるまでには至らなかったこと、Q組合員の契約更新を約束する言質をとることができなかったことなど、曖昧な結論しか獲得しえなかったので、再度、交渉をする必要があると考えました。そこで、次回団体交渉を求める12月18日付要求書(甲6号証)を提出しました。
 ここで一つ確認しておくことは、1回目の団体交渉においては、Q組合員の指導内容などについてのクレームであるとか、研修態度などについて、問題点が上がっていたと言うことについては、全く言及されることはなかったということです。
 要求書への回答期限は12がつ25日でしたが、カワイ側から回答延長がなされ、年明けの2009年1月24日付で回答(甲第7号証)がありました。回答内容は、「団体交渉は受けないけれども話し合いは受ける」「会社の言う委任契約は偽装的な委任契約ではないこと」「グレード制度は合理的であること」「Q組合員が委任契約の正当性を認めることが契約更新の前提となること」その上に、「ただし、Q組合員の生徒への対応などを聞き及ぶ限り契約更新は困難であると判断している」とのことでした。
 一読して、絵に描いたような不当労働行為であると思いました。前回の団体交渉での積み重ねが反映されていないどころか、形式的に話し合いだけに応じて、会社の違法性には開き直ったまま、組合及び組合員であるQを排除するような回答でした。
 それは、「委任契約の正当性を認めなければ契約を更新しない」とした上で、「Q組合員の契約更新は困難」とまで書かれていたからです。組合の主張は、委任契約に違法性があり、Q組合員の就業実態は雇用契約であるとしているにもかかわらず、回答は、委任契約の正当性を認めることが契約更新の前提であるというのですから、組合が要求を理由に契約更新しないと言っていると解釈するしかないからです。
 さらに、「生徒への対応を聞き及ぶ限り」とありましたが、Q組合員が生徒の対応のことでトラブルを起こしたということなど、それまでQ組合員から聞いたことはありませんし、本人も何の事だかわからない様子でした。組合は、本人からすべての事情を聞き相談を受けるのであって、後日になって知らないことが起こることに対して、大きく配慮しています。この回答は、Q組合員を排除するために、会社がとってつけたような理由をこじつけたことは即座に分かりました。このようにして、組合員を排除するのは不当労働行為の常套手段です。
 第1回目の団体交渉では、会社側はこのような「トラブル」については全く言及しておらず、どちらかと言えばQ組合員の希望を聞くなどして、来年度の契約を前提とした話しぶりであったので、この回答を受けて組合としては急転直下の対応を迫られたことになり、少し動揺しました。

3.契約更新手続きの恣意性と決定経緯及び権限の不明〜1月31日の協議〜
 組合は、カワイ側に対してこの回答を撤回させるため、緊急に協議の場を求めることを決め、同年1月26日、小野組合員が「この回答書について協議を持ちたい」ということで連絡を行いました。とにかく、「契約更新は困難」との文言を早急に撤回させなければならないという判断からでした。また、カワイのホームページ情報で知ったのですが、同年2月で会社組織が改編されていることも確認しなければなりませんでした。電話での会社側の対応は別府さんであり、1月31日に団体交渉を設定されました。
 カワイ側の出席者は、前回の団体交渉と同様、別府、福井、橋本でした。
 まず、2月から会社組織が変更されるので、責任の所在がどうなるのかを確認したところ、九州の責任者はこれまでどおり北川支社長との事でした。
 次に、契約の更新はどのようにして判断されるのかを聞きました。天神にある福岡事務所の判断が大きいということでした。しかしながら、今回の回答書については、本社と支社長の判断も入っているとのことでしたが、本社や支社長がどのような判断をしているかの具体的な内容は言及されませんでした。「契約更新が困難」と回答するにいたった決定的な材料について、「総合的に判断した」というだけで、具体的な出来事や理由については、3人とも何も応えられませんでした。
 さらに、「契約は更新が前提になっているのではないか」と尋ねたところ、橋本さんは特に否定はされませんでした。一般的に、講師との面接は、講師の就労の希望を調査し、新たな講師募集の必要性を判断するために開催するものだと話していました。しかしながら、Q組合員が1月30日になされた面接は、そのようなものではなかったことは前回の証言とおりです。面接の時間は希望についてはほとんど聞かれず、怒られる時間の方が長く、この面接までには指導などされなかったことを、唐突に追及されたような感じだったと言っていました。私は、その日、すでに更新拒否の意思表示が会社からなされている時点の面接が、ある意味「恫喝的」な場になるのではないかと危惧していたので、Qさんが面接が終わった直後に組合事務所で会うことにしていましたのでよく覚えています。Qさんは、かなり怯えていて落ち着かない様子でした。
 結局、Q組合員の契約更新については、次回の交渉の場で回答するとのことで、2月半ばまでに団体交渉を開催するよう日程を調整することを確認しました。後は電話で打ち合わせをしました。とにかく2月半ばまでには協議したいと伝えたところ、2月13日との返事がありました。

4.第3回目の団体交渉 北川支社長の責任と権限
 会社側の出席者は北川支社長、別府さん、橋本さん、福井さんでした。支社長と会ったのはこのときが初めてで、組合ならず、Qさんもこれまで会ったことも、話したことも一度もないと言っていました。別府さんなど九州支社に人と会うこともなかったそうです。
 団体交渉の目的は、回答を撤回させ、Qさんの契約更新を求めることです。北川支社長は、自分が今回の件の最終的な責任者であると言いつつも、全体的にしどろもどろな感じで発言内容が今ひとつ明確ではないと感じました。北川支社長は、交渉の冒頭で「更新しないという結論を出している」と述べました。回答書で「更新は困難」と伝えたのは、早く知らせた方がいいと思ったなどと、いい加減なことを言っていました。この契約更新拒否の責任は、北川支社長自身にあると言いながら、人事の担当であって経営の責任者ではないので、判断できないこともあるとも言いました。本社の音楽教育事業部に打診して結論を出したと言っていましたが、本社の音楽事業部にどのような打診をしたのかについては、内容は全くありませんでした。
 私が、この団体交渉の前に、本社に電話をして「本件について知っているかどうか尋ね、最終責任は本社にあるのではないか」と尋ねましたら、本社の音楽教育事業部の方は「支社に対応を任せている」と言っていました。組合としては、本社に最終責任はあると考えていますし、実際、本社に打診というか判断を仰いだと考えられます。

5.会社側見解としてのQ組合員の契約を更新しない理由
 契約を更新しない理由について、北川支社長は、しどろもどろに契約前の幼稚園からのクレームのことを持ち出しました。何が言いたいのか不明な程度の発言だったのですが、「自分は3月の段階で正式な契約は止めた方がいいのではと現場に対して言ったが、講師の数が足りないのでお願いしますと言われた」というようなことを言い出しました。このクレームついては、4月1日の契約以前のことであり、本契約のこととは関係ないことを確認しました。また、準備書面では口頭での委任契約と主張していますが、この協議の場で北川支社長がはっきりとアルバイトの労働契約をしたと言っています。このことと、チラシまきのことも現在是正しているとして「それだけは混同してはまずいなということを申し上げた」との発言がありました。
 その後、橋本さんから更新しない理由についての説明がありました。体験入学した生徒11人のうち4人しか正式に入会していなかった、生徒の出席率が悪いこと、音楽教育事業全体が不振であること、技量を高める努力が見えなかったことなどです。面接できかれたこととおぼ同じような内容ですが、述べたように、Q組合員はそのようなことをそれまでカワイ側から聞いたことはありませんでした。
 具体的には、体験入学での入会率が通常は8割であるが、Q組合員は11人中4人と他の人と比べて良くなかったという説明をしていましたが、何らの目標基準も存在していないし、「生徒を獲得せよ」という指示も会社はしていないそうです。しかし、一方で橋本さんは「できれば入っていただくためにはこういう方法がいいですよ」とか「そういいったことは前もって指導をやった上で体験レッスンで」と指示に近いことをしたと言っていました。生徒の出席率が悪いことについても、具体的な数字の根拠は挙げることもなく、そのような傾向があるという程度の説明だけでした。
 会社側の都合として、生徒の自然減少傾向で、低下率や減少率が大きいという説明をしていました。しかし、Q組合員がいたところで会社が倒れるわけではないし、Q組合員が拒否される理由は全くないのです。
 さらに曖昧な理由として、「もっと成長して欲しいという期待があったが、そこまで行っていなかった」と述べていましたが、具体的な根拠はなく主観的に過ぎるものでした。北川支社長は、「無料研修に参加が少ない」「アドバイスになかなか従ってくれないということも判断の一つになっている」として、「そういったケースはほとんどない、保護者のクレームならまだいい」などと言ってることから察しても、研修問題については当然の権利を行使しただけなのに、今思えば、このこと自体が組合的な行為をしていることを理由として報告されていたのだと思います。
 結局、カワイ側の更新拒否の説明は具体的な根拠に欠けており、全く納得できませんでしたので、契約を更新しないことに理由はないと会社に指摘しました。すると今度は、「Q組合員への信頼が低下した」などと言い出しました。委任契約であるならば、信頼が無いということで契約破棄されることもあると考えられないこともないですが、そもそも委任契約というのが、会社との対等な関係での法律的な信頼関係に基づいていた場合であって、その前提である委任契約自体が偽装的であり、カワイ側がQ組合員の信頼を損ねるようなことをし続けてことが事の始まりなのです。
 つまるところカワイ側は、小さなクレームなどをあげつらって、Q組合員を排除しようとしているだけで、抽象的な「総合的判断」とか「信頼関係」などという主観的な答弁に終始していました。

6.話し合いに終止符を打とうとする北川支社長
 何ら説得力のある回答が出来ないまま、返答に窮してきた交渉の最後になって、予定していた時間が切れそうになると、北川支社長が、突然、金銭解決を切り出してきました。「なかなか溝が埋まらない部分があることも認識しています。今回、第3の方法はないのか、ということはないのか」と言って、それは金銭的な補償だと言いました。Q組合員の年収が50数万円としてその半年分ということで20数万円という具体的な金額まで提示されました。
 組合としても、Q組合員としても、とてもその案にのる気にはなれませんでした。会社の不当労働行為の責任が曖昧なままで、金銭解決はできないと考えたからです。しかも、北川支社長は、この案と同時に、「団体交渉はそもそも受けない」「話し合いは今日で終わる」ということを明言し、この場で20数万円ですべてを終わらせうやむやにしようとしたことがあまりにも見えていたからです。「団体交渉については初めからお受けするつもりはない」「これで最後にしたい」ということを連発していました。その理由としては、北川支社長は、2月の人事異動で関西副支社長になったが、3月以降どんな発令が出るか分からないので、自分も不安であるというようなことを言い出しました。とにかく内容に関する話し合いも団交もしないが、金銭(20数万円)での補償を受けるかどうかの話だけは、電話などの窓口を開けておくというような言い方のまま、団体交渉は決裂して終わりました。

7.決裂後の団交要求など
 その後組合は、2月24日に団体交渉を申し入れ(甲第10号証)、あらためて団体交渉を求めました。回答(甲第11号証)は、2月26日に届き、団体交渉についても、話し合いについても応じないという回答でした。それで、やむを得ず労働委員会にあっせん申請ました。しかし、2回ほど調査が行われましたが、会社側は別府さんと橋本さん二人しか出てこず、北川支社長は依願退職されたらしく、会社の責任と権限のある人は出てこないままにあっせんは不調に終わりました。
 それで、救済申立をなしましたが、カワイは相変わらず弁護士と橋本さんだけが出席するばかりで、調査の場で会社の権限を持つ人の判断を聞くことができなかったので、その後も、団体交渉を受けるように申入書や全国の賛同者名などの入ったものなどを送ったりもしました。団交要求書も送付しましたが、何の返事も来ないし、電話をしてもだれが責任者なのか全然分からないような対応でしかありません。開催支社に電話をして支社長をよんでも出てきてくれませんでした。労働委員会で係争しているからといって、組合の要求を無視して良いことにはなりません。
 しかしながら、カワイがこのような頑なな対応をとればとるほど、本件に賛同する人が多いことを実感するようになりました。特に、同じ音楽業界はじめ、一度でも何らかの形でカワイの音楽教室に関わったことのある人に共感を呼んでいます。さらに、実際に全国各地でカワイの音楽講師として働いている人からの共感賛同が多いのにびっくりしました。メールや電話で数件ありました。辞めたいのに辞めさせてもらえないとか、楽器を売らなければならないとかです。

8.全国に組合として闘っている仲間が存在
 先日、組合の電話に関西支社で講師をする方から、本件についての問い合わせがありました。その講師の方の話では、委任契約の講師40名ほどで、組合を結成し、10年くらい前から講師同士が悩みを相談したり、会社と話し合ったり、ビラをまいたりして、カワイ音楽家ユニオンと称して活動しているとのことでした。しかも、2006年には大阪府労働委員会において労働組合の資格証明をとっています。
 カワイの講師待遇のひどさをQ組合員から聞いたときから、他にもカワイ側に対して異議申立をしてきた人は少なからずいるであろうとくらいは予想していました。過去にも裁判例などもあるかと思いますが、なかなか表だってそれが見えませんでした。カワイの準備書面のなかで、全国で更新拒否をされた人の数や理由が挙げられていましたが、すべてとは言いませんがそういった人たちは個人的に異議を申し立てて拒否されたのだと思います。Q組合員も同じですが、Q組合員には組合がありましたので、こういう形で争うことができて、今回私たちの闘いに気づいた人たちが相談してきたり、名乗りを上げている大阪の講師組合の人たちと出会うことができました。
 今、振り返ってみれば、Q組合員が個人的に山根さんや江頭さんと話し合いをしたときから、会社はQ組合員のことを忌み嫌うような、煙たい存在として認識感していたのだと思います。組合として話し合いをすることについても、当初は話し合いには応じるが団交には応じないとの柔軟と言えば柔軟な姿勢で、契約内容についても一定の改善もなしながら、「話し合う」というやり方をしたのです。大阪もそのようです。
 しかしながら、最終的に組合を公然化したので、組合を拡大させないためにQ組合員の更新を拒否したに他なりません。さらには金銭解決で何とか終止符を打とうとしたけれでも、それもならなかったというのが真相だと思います。

以上

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