陳述書


2010年2月16日
福岡県労働委員会会長 殿
フリーターユニオン福岡
組合員 上村 陽一郎

 福岡労委2009年(不)第5号不当労働行為救済申立事件について、次のとおり陳述します。


1.申立人組合の結成と社会的背景
 フリーターユニオン福岡は個人加盟方式の組合で、正式な結成は2006年6月1日、結成時の組合員は23名で、現在も同じです。(結成当初の名称は、「フリーター非正規雇用労働者ユニオン福岡」)
 フリーターユニオン福岡は、昨今社会問題化した派遣労働その他の拡大に象徴される雇用の不安定化・流動化の中で、各種のいわゆる「非正規」の形態で働く労働者の労働条件の改善を目指して結成されました。狭義の「パート労働者」のみならず、いわゆるフリーランス等の形態で働いている人も組織しています。
 結成以来取り組んできた案件には、いわゆる「個人事業主」等として「委任」ないし「業務委託」等の名目の契約を結んでいるものの、実態としては会社企業に従属しつつ、時間や場所を拘束され、かつ会社の一般的な指揮命令下で労務を提供しているという事例が極めて多かったのです。社会の変化にともなって企業形態と雇用形態が多様化している現状においては、個々の労働者の働きかたに多様な選択肢が認められること自体はよいことのように思われている面がありますが、企業がその圧倒的に優越的な地位を利用して、実際には従属的な地位にある労働者との関係を、さも対等であるかのごとくに偽装し、労働者の諸権利を軽視するがごとき事態は決して許されません。
 そういった非正規雇用あるいは、偽装的な派遣労働や委任契約の労働者が増えてきた中で、そのような働き方をする人たちの権利を守ることと労働条件の向上を目指してきました。もちろん、組合員は非正規雇用に限らず、正社員の人もいますし、職種的には販売業のパート、教育職、介護職、そして、ニート、ヒキコモリと称されているような働けない人や求職しても仕事のない無職の人などが加入しています。
 労働条件以前に労働者性そのものを争うことが多々あり、会社と交渉すると、当該が労働者であるということを立証することから始めなければならないということが多かったです。例えばフルコミッションで営業をしている人、偽装的な委任契約で拘束された塾講師とかです。しかしながら、今回のカワイのように労働者性を否定して、団体交渉をはなから受けないと言われ、最終的には話し合いまで拒否されて労働委員会まで係争したことは初めてです。大企業であり、かつ音楽業界では全国に名をはせた一流企業であり老舗であるカワイが、そのような講師待遇をしていることに、率直なところかなり不信と驚きを禁じ得ませんでした。

2.Q組合員の加入経緯について
 Q組合員は、2007年の11月ころ、組合員の紹介で組合に出入りするようになり、カワイでの労働条件についての話を聞いていました。講師報酬が安い、遠隔地に教室を持たされる、という話などです。講師報酬が、生徒一人当たり一月2000円にもならないということを聞いたときは、あまりにひどい条件だと思いました。
 また、いわゆる雇用契約で働いている組合員と働きかたは変わらないと考えました。採用試験を受けて入社していたこと、会社から指定された場所に行って仕事をしていること、会社規定の報酬を支払われていたこと、会社が指定する研修を受けていたことなどです。要するに、会社組織の一員に属しているとしか見えなかったということです。訪問介護をしている組合員がいますが、その人の働き方に近いものがありました。ヘルパーは、会社に指定された場所に行って仕事をするわけですが、別に自分の都合に合わなければ、断ることもできます。でも、訪問介護員は労働基準法上の労働者です。厚労省の通達でそういう風に言っています。
 あまりの労働条件のひどさに、組合から「カワイをやめてはどうか」とさえアドバイスしたことはありますが、Q組合員は音楽以外の仕事はできそうになさそうでしたし、そう簡単に他の仕事が見つかるとは思えないというのが現実でした。したがって、何とか現時点で少しでも改善できることはないかと考え、委任契約であればレッスンや研修を受けねばならないということ自体はおかしいので、「会社に受けませんといえば、それ以上会社は何ともできないだろう」とアドバイスしました。その時は、組合が会社と交渉するのではなく、個人のレベルで会社と話がつくならばそのほうが良いと思い、個人で話をしてみることを勧めました。いきなり組合が出て行くことで、かえってQ組合員が不利益を受ける可能性も否定できなかったからです。Q組合員が組合に接触してから、加入するまでに時間がかかっているのは、そういうことです。

3.組合公然化と電話での折衝
 組合公然化したきっかけは、Q組合員から、レッスンや研修を受けなければテストをすると言われたこと、また講師研究会への参加合意書に7月10日までに判を押すように言われたと相談されたからです。このことがなぜ決定的な出来事になったのかというと、Q組合員の収入から講師研究会の会費が天引きされるということだったです。レッスンや研修に加えて、講師研究会の会費まで天引きされることになると、Q組合員の収入がさらに下がると考えたからです。
 2008年7月4日、組合が会社とはじめて電話をし、九州支社の福井課長が対応されました。組合としてはレッスンが強制されているという認識があったので、講師研究会の入会が任意であること、研修やレッスンの出席も任意であることについて確認しました。その後、カワイ側がQ組合員に対して、、筑紫野ベレッサの日報は会社に提出するのではなくて、ベレッサの教室に置いたままにしておいて良い、会社が後で回収すると言ったようです。
 次に会社と接触したのは、8月8日です。「レッスンを受けない代わりに課題曲の入ったテープを出すよう」にQ組合員に言ってきたからです。福岡事務所の山根さんから、Q組合員に催促するメールが届きました。レッスンを受けなければ課題が出されるのであれば、実質的にレッスンを強制していることに変わらないと判断したからです。会社には、「テープを出さねばならないか。出さなかったらどうなるのか」ということを聞きました。会社は「テープの内容によって指導はするけど、契約に更新に影響は無い」と答えました。
 ところが、その後レッスンを受講していない講師に対して、テープを提出するように文書(甲第3号証)を配布していましたけれども、最終的には山根さんが筑紫野ベレッサに来て、講師研究会も外れたので音教も外れることになった、また講師会合に出る必要もないと、Q組合員に伝えたそうです。結果、テープも出さずに良くなりました。Q組合員の立場は、特別講師という立場になったとのことですが、特別講師という立場も、会社からではなくて、他の人から聞き及んだとの認識でした。今ひとつ、講師の立場が曖昧なものとしてしか理解できませんでした。

4.要求書の提出と会社の対応
 レッスン、研修、講師研究会についての問題は、一応の決着はついたと思うのですが、それでもなお要求書を出して団体交渉をしようと考えました。既に組合が公然化したので、Q組合員が契約を打ち切られるなどの不利益取り扱いを受けることがないようにしておこうということが、もっとも大きな目的でした。
 要求書を出したのは9月22日付(第4号証)です。要求書の内容は、Q組合員の就労実態は雇用契約であり、会社と講師は雇用契約であるべきだということ、レッスン、グレード認定試験を無料にすること、Q組合員の契約を更新することです。
 回答(甲第5号証)は、団体交渉は受けないけれど、話し合いには応じるというものでした。団体交渉は11月20日、会社側の担当者は、別府さん、橋本さん、福井さんで、全員課長です。
 まず、団体交渉であるのか話し合いかということについて議論になりました。会社側の言い分は雇用契約でないから団体交渉ではない、組合側の主張は、委任契約であっても団体交渉は成立するということで、結局、平行線のままでした。
 ここで話されたことがQ組合員の労働条件に反映されるということは「そのとおりである」といっていました。課長職の人しか出ていませんでしたが、出席者が話を聞いて上にあげると話していました。本社か支社長かははっきりとは答えられていませんでした。組合との団体交渉の件については、会社の経営陣に話は伝わっているとのことでした。

5.委任契約の合理性に応えられない会社
 その後、労働者性の問題について問うていきました。業務依頼に対する諾否の自由はあるとして、依頼された場合に都合が悪ければ断ることができるというのが会社の言い分でした。訪問介護をしている組合員の話しをしましたが、それと何か変わるところはありませんでした。
 業務の遂行方法については、音楽教育システムでカワイ独自で開発しているテキストに先生が対応してもらう必要がある、それに従って働いていることは認めていました。
 通常予定されている仕事以外に従事することがあるという点については、講師以外の業務について、付帯業務という形で、Q組合員の場合であればチラシ配り等に従事しているということでした。ただ、拒否した場合に収入は減りますがペナルティは無いとの事でした。
 時間、場所等の拘束性については、業務の性質上そうせざるを得ないということでした。生徒が集まる場所、ピアノのある場所が決まっているからとの事です。拘束性はあるけれども、業務の性質上仕方がないという言い方でした。
 代替性については、講師同士がレッスンを自由に交代できないことは認めていました。その理由は、一人当たりの歩合比率が決まっているからと、源泉徴収の関係のためだそうです。個人間でやり取りをしてしまうと、その計算に支障をきたすような言い方をしていました。報酬の計算根拠が時間を基にしているという点については、一人当たりの歩合で報酬は決まっているということでした。ただし、レッスン時間は一人30分ということは決められているし、講師会合の際にレッスン時間は30分で行うようにといわれていたということを、Q組合員が証言しました。
 本人の所有する機械、器具の使用を認めていないという点については、事実上できないとのことで、教室等の決定は結局会社が決めているとのことでした。
 Q組合員の契約上の地位については、ポピュラー担当から、音教の講師になり音教の講師のままということでした。
 グレード制度については、グレード試験を受けなくても構わないが、受けなければ昇給はないということでした。

6.委任契約内で希望は受け止めるという会社側の姿勢
 契約更新については、契約を更新したいという人の場合には、改善点が無ければほぼ更新ということでした。改善点がある場合には、2回、3回と面接をして決めるとのことでした。1回では面接は終わらないとのことでした。契約の更新は、各事務所で決めるということでした。
 団体交渉ので終わりの頃、Q組合員の希望については聞くとのことでしたので、希望日時、場所などの希望を伝えました。Q組合員は、「とにかく仕事を増やして欲しい」と言っていました。別府さんは、組合に加入したことをもって不利益な取り扱いを受けないと言いました。
 Q組合員が組合に相談を初めてから、個人的に山根氏や江頭氏と話し合いをした際には、研修問題なども会社側のはっきりした回答は得られず、研修についても「受けなければテープを出すように」といった形でしか対応されてこなかったのです。しかしながら、組合が電話を通じて交渉を始めたところ、会社側の対応は明らかに変化しました。テープの提出についても何も言われなくなり、講師研究会からも外れ、音教という立場でもなくなり、講師会議すら出席しなくて良いとれて、事務的な仕事は基本的にしなくてよいという対応になりました。会社の言う団体交渉を受けないが話し合いには応じるとは詭弁であり、実際には個人では改善しなかった要求が、組合を通じることによって改善されたことに明らかなように、労働組合の存在を全く否定することもできないという会社側の「負い目」を現しています。すなわち、裏を返せば、Q組合員はじめ講師の労働者性を認めざるを得なかったことに他ならないのです。
 その上で、結果としては、権限のある者を出席させず、あくまで組合としての団体交渉という法的地位を認めないと言う不当労働行為をなしたものであると考えます。
以上

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